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SUZUKI's Works ⁄ 鈴木忠志構成・演出作品

12月24日 ライフショック

 池の中に鯉を入れておいたから、適当に捕まえてタンパク源にでもしてください。劇団員の食事の貧しさを知った村長の配慮には恐縮したが、しかしこのお蔭で、稽古の合間の暇つぶしができただけではなく、魚釣りの楽しみも味わうこともできた。
 吉祥寺シアターでのSCOT公演「リア王」と「ディオニュソス」の仕込み替えの合間に井の頭公園に行く。池の中に太った鯉がたくさん泳いでいる。実に大きい。これを釣り上げるのは大変だとしばらく見とれているうちに、30年前に利賀村の村長に言われた言葉が浮かび、この鯉だったら何匹を捕まえれば劇団員にいきわたるか、などと考え出してしまった。横の方を見ると、池の魚は釣ってはいけませんと書いてあって笑えた。井の頭公園はのどかで動物園まである。今年は貂や白鼻芯や狸やらに池の魚を捕られたり、わが家に棲み込ませないための戦いの連続だったから、檻の中で動物が飼われ、愛されている光景を見ると不思議な感じがしてこれも笑えた。また、ベンチが至る所に置かれている。利賀の芸術公園では、冬になる前にベンチは片付けなければならない。雪の重みで潰されないためである。
 久しぶりに武蔵野市に滞在し、カルチャーショックならぬライフショックであった。街は人口13万人の市とは思えないほどの活気がある。大学が多いせいか、街路は若者で溢れている。夜遅くまでもさまざまな飲食店の明かりが暖かく、流入する人口が多いことを思わせられる。朝8時まで営業しているウドン屋があったりして驚く。吉祥寺シアターは小さいながらよく考えられた劇場で、デザインもすばらしい。劇場周辺の環境も夜行型の演劇人には向いている。東京公演を滅多にしなかったのは、私の作品にあう劇場が見つからなかったからだが、来年も同じ時期に公演させてもらうことにした。一年に一度とはいえ、私の舞台を待っていてくれる観客に出会えることは嬉しい。
 利賀と吉祥寺、このコントラストは刺激的で楽しいが、ただ利賀という地域の衰退をフッと思い出すこともあって寂しい時もある。利賀村では昼間に、顔見知りでない若者に会うことはあまりない。中国からの労働者たちが賑やかに喋りながら歩く姿を、一時期はよく見かけたことがある。しかしバブル崩壊後の公共事業の減少で静かになった今や、それも遠いなつかしい村の光景である。夜は小動物の活躍時間、真の闇である。
 利賀村は現在、近隣の7町村と合併し南砺市の一部で、人口は6万人弱。しかし南砺市は過疎地の指定を受けている。かつては4000人以上が住んでいたこともある利賀村地域は、現在では700人ほどの人しか住んでいない。
 明日は「ディオニュソス」の公演後、武蔵野市の邑上市長、南砺市の田中市長との座談がある。政治的にも経済的にも衰退しつつある日本、デジタル文化の到来で国民意識が変化しつつある日本、対照的な両市の首長には、それぞれに政治家としての異なった苦労があるだろう。小さな自治体の夢と希望、それを手にする戦略、それは何かを聞きたいと思っている。


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