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SUZUKI's Works ⁄ 鈴木忠志構成・演出作品

10月18日 有り難い縁

 吉祥寺シアターでの公演の稽古に入る。吉祥寺シアターのある武蔵野市と利賀村は姉妹都市であった。姉妹都市であることを知った時は、過密と過疎の取り合わせが不思議に思えたが、色々な縁があったようである。今は利賀村も南砺市の一部、人口も似たようなもの、両市の市長の好意と応援で、昨年からSCOTが定期的に公演をすることになった。その折に市民間の交流会も開かれ、私の舞台を一緒に見てくれる。感謝である。
 首都圏での定期的な公演は久方ぶり。昨年の公演では、チケットは発売とともにすぐに売り切れた。有り難いことだが、何よりも得難かったのは、劇場のデザインと雰囲気が私の作品に適していたこと、また劇場を取り囲む環境が良かったことである。私の舞台作品は劇場の在り方で、観客が受ける印象がずいぶんと違う。私がこれまで東京で公演をしなかった理由には、私の作品に適した劇場空間を見いだせなかったことが大きい。
 本年の公演は三作品、首都圏ではこれまで上演しなかったものばかりである。長谷川伸の戯曲を引用して創った「帰ってきた日本」、その<一部>と<二部>を一つの作品に纏めたもの、谷崎潤一郎の小説と戯曲を一つの作品に構成した「別冊 谷崎潤一郎」、それにオペラでよく知られるホーフマンスタール原作の「エレクトラ」、韓国と日本の俳優の共演、打楽器の生演奏の舞台である。
 「帰ってきた日本」の<二部>は昨年に発表した作品だが、登場人物の呼称を、中国の某、韓国の某、というようにアジアの国名にした。その人たちが、日本の某である主人公と争う。原作は任侠の世界、今で言えばヤクザ仲間の義理人情、それを軸にした殺し合いの話である。たまたま上演直前に日本の海上保安庁が、中国漁船を拿捕した尖閣事件が起こったので、この舞台はアジアを中心とした国際情勢のパロディーだという印象を観客に与えたようである。作品創作の動機はまったく違っていたのだが、原作の人物の呼称を変えたのでそういう結果になったところがある。舞台上の人間関係とその人たちが生きている状況に俳優たちがのめりこまないで、演技に距離感を持たせようとしたのが初めの意図であった。別の用語で言えば、関係の異化あるいは抽象化である。
 「エレクトラ」の主演女優ビョン・ユージョンは韓国人である。韓国でも私の訓練を学んだ人たち、私の舞台に出演した俳優は少なくはないが、彼女はよく私の訓練を習得してくれている。彼女の身体、声と動きから放出されるエネルギーの強靭さは、日本の女優にはなかなか見いだし難いもの。この作品は来年の夏にイギリスのエディンバラ芸術祭で、フランスのムヌーシュキン、スイスのマルターラーなどの演出家の舞台と共に上演される。
 「別冊 谷崎潤一郎」の原作は約90年前に書かれているが、そこで扱われた主題とその論理的な言葉は、今現在でも生々しく説得力がある。むしろ、現在だからこそ、身近に感じるのかもしれない、といった趣きがある。二人の犯罪者の言が、不思議に堂々とした理屈になっていて、笑いながらも感心してしまったりする。谷崎の論理性の力技だが、秀れた文学者とその作品の、時間を超える存在理由を垣間見させてくれる。
 今回も昨年と同様に、多くの人たちに見てもらえたらと思う。そして、多くの率直な感想を聞けたらとも。


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