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SUZUKI's Works ⁄ 鈴木忠志構成・演出作品

8月18日 縮む日本

 イギリスから日本に帰ってくるなり、穏やかではない国際政治のニュースばかりを耳にする。韓国大統領が竹島を訪問したり、尖閣諸島には中国の民間人が強引に上陸したり。さすがに中国人は逮捕したようだが、竹島は韓国に実効支配されている島だから、韓国の大統領の上陸を阻止するわけにもいかず、韓国の領土化を認めざるをえないような成り行きである。竹島は20世紀初頭に、日本の領有権を世界に知らしめたもの。韓国は日本海という名称の変更すら強力に主張しだしたようだが、大統領就任当時は日韓関係を未来志向で考えよう、と言っていたと思いきや、今や歴然とした過去志向。天皇にまで謝罪を要求しているらしい。北方領土にはロシア大統領が訪問し、もはや日本への返還などあるはずもないような挑発的な発言までされている。
 日本の政治環境は、私が予測していたとおりの、厳しい状況に突入しだした。国際政治に関わることは、殆どのことをアメリカ政府の意向に依存して決定してきた日本の政治家や官僚に、この難しい状況を独自に打開していく力量があるのかどうか、正直のところ頼りなくも疑わしい。
 私の近年は、これら三ヵ国の人たちとの緊密な共同作業に費やされてきた。そのために演劇人に多くの友人が出来、また秀れた俳優を養成し、私の舞台でも活躍してもらってきた。実際のところ、今月のエジンバラ国際フェスティバルで上演し、好評を博した「エレクトラ」のタイトル・ロール=主役は韓国の女優である。また来月には北京で、中国人の俳優に、日本、韓国、アメリカの俳優を加えて、シェイクスピアの「リア王」を演出する。
 それだけではなく、10月には中国唯一の国立舞台芸術大学、中央戯劇学院の名誉教授に就任することにした。その式典を10月にするらしい。どんな事をするのか詳らかにはしないが、学院は創立70周年、10年毎に一人を中国以外の国から名誉教授として選任し、招聘しているのだそうである。好きなときに来て、好きな事を何でもして良い、例えば演出でも良いし、訓練を教えるでも良い、あるいは演劇や文化についての講義でも良い、一切の費用は中国政府が責任をもって負担すると言われてのことだが、若干の逡巡の後に意を決して引き受けてみた。中国との関係は、日本人個人としても、意識的でありたいと思ってのことである。
 もう昔の事だが、ロシアのプーチン大統領と懇談した折に示唆され、日露双方の政治家、行政官、文化関係者が集まり、日露文化フォーラムという会を組織し、演劇、ダンス、美術などの文化活動を数年にわたって紹介しあったことがある。何回目かの交流事業のパーティの席で、ロシア側を代表する委員が楽しそうに発言した。
 日本と比べて広大なロシアの領土からすれば、北方四島などは地図の片隅にかすかに存在するもの、ロシア人は心の底では大多数が、あれぐらいの領土は日本人に返しても差し支えないと思っている。私は苦笑させられたのを思い出す。ロシアが新しい国家として再出発しだした苦難の頃、日本が経済大国としての心理的な余裕を、いまだ保持していた頃のことである。それほど前のことではないのに、隔世の感がする。
 今夏のSCOTサマー・シーズンで上演する「世界の果てからこんにちは」に次のような台詞がある。老人養護施設の院長が、居住者から部屋の間取りが二畳では狭すぎる、せめて三畳を確保すべきだと、抗議されて答える場面のものである。
 「三畳確保は戦前の約束です。あんた方は昭和16年の入院です。その当時の約束が、今でも継続しておると思っておるのですか。常識でもって考えてもらわなければいかん。ね、その間に日本は戦争に負けたんですぞ。日本は四つの島にちぢんだんですぞ。日本がちぢめば、自然とあんた方の住居の広さもちぢんでくる。当然の話ではないですか。他のものがすべてちぢんだのに、自分だけ元のままでいようというのは、虫がよすぎる。そういう利己主義はこの際、一切ちぢんでもらわんければ困る」
 この場面を稽古する度に劇団員は昔、この屁理屈の見事さに楽しそうに笑っていたものである。もちろん、私もである。しかし最近の私は、ただ笑ってばかりにも、イラレナイナアーという感じ。世界情勢とこの三ヵ国と私との関係の変化が、然らしめるところだとでもいうべきか。 


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