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鈴木忠志見たり・聴いたり

1月30日 流行歌

 日清戦争により、台湾は日本に割譲された。これに怒った台湾人が独立を宣言したのが1895年、それから20世紀末までの約100年間に台湾で流行した歌を聴いている。来年の初頭、台湾国立劇場で音楽劇を作るのだが、劇中で歌われる20曲を選ぶため。台湾100年の歴史を既存の音楽を使って描こうという企画である。音楽家である劇場の理事長が選んだ100曲ほどが手元にある。その中には、Green Island Nocturneという50年代に流行った、男が愛する女に歌う哀しいラブソングがある。ところが、このGreen Island<緑島>というのは日本軍占領時代には政治犯、50年代には中国国民党の思想に反対する人たちを隔離収容する場所だったという。このラブソングは、囚人たちの心情にも通じているらしい。中国語で歌われているので心情のニュアンスを理解するのがなかなか難しく、たいへんな仕事になりそうな予感がする。
 一昨年の秋、国際演劇協会の大会が南京で開催され、それに併せて中国初の世界演劇祭が行なわれた。そのオープニング公演に招待されたのだが、劇場は南京前線大劇場という中国軍が所有する立派な劇場だった。南京は一時期、蒋介石の国民党の拠点であり、日本軍の中国人民虐殺の資料や記録が展示されている記念館がある。実際に私たちの公演を助け、歓迎してくれたのは、国民党に勝利した中国共産党の中央や地方の幹部のひとたちであった。国民党は中国共産党との内戦に敗れ、日本から解放された台湾に逃れている。
 台湾の国立劇場、正式の名称は国立中正文化中心である。これは蒋介石の死を機会に、彼の遺徳を顕彰するための計画の一環として建てられたものだときく。私が聴いた曲の中には中国本土への望郷の思いを歌ったものもあったが、最近では台湾語と北京語を混ぜた曲もある。巨大になりつつある中国の存在と台湾の関係が歌の中にも反映されているように思う。
 歌を通じて、日本と中国の歴史的な関係に改めて直面させられるとは思わなかった。歌にはそれが流行した当時の民衆の心情が、あるときは素直に、あるときは屈折して反映されている。流行する歌というものの重要さを再認識する。