新・帰ってきた日本

SCOT ブログ

January,27,2019

1月27日 高嶺の月

 今年は雪が少ないと思いきや、昨日あたりから激しく降り出した。久しぶりの寒気が日本全国を覆い、山間部の積雪は猛烈なものになると天気予報は言う。その備えのために、昨日25日は一日中ショベルカーと除雪車で、家の周囲の残雪を池や川に落とした。夢中になっていると少し離れた所に人影、写真を撮っている。ショベルカーの運転席を回転させて見ると、南砺市の市長と職員の二人。夏に開催されるシアター・オリンピックスの市の施設を改装する件で、懇談することになっていたのを思い出す。台所に戻り、一緒に食べる料理の準備を始める。
 50代の市長は食事中もいたって元気、エネルギッシュに腹式呼吸で大声で話すので、イツモ感心。この人は俳優をやっても成功すると内心で思う。タトヘバ、現在の日本の世界情勢の中での在り方を、憂いながら演説する。そして最後に朗々と流行歌「さざんかの宿」を歌う。
 曇りガラスを手でふいて、あなた明日が見えますか、愛しても愛しても、ああ他人の妻…春はいつくるサザンカの宿。この歌は現在、新作の稽古で使っているのだが、他人の妻を<竹島>や<北方領土>だとすれば、流行歌「さざんかの宿」も日韓、日露の関係の歌になり、作品のイメージが広がるなどとフザケタ妄想が湧く。ソレクライ、市長の身体も声も立派、舞台向きなのである。ソレダケデハナク、現職の地方都市の市長が俳優として舞台に登場するのも、政治の世界をホガラカニスル、国会議長あたりも積極的にやったら、オモシロイカモ、などと妄想は昂進。
 今月の22日に、安倍首相とプーチン大統領の会談がモスクワであった。会談終了後、両者は共同の記者発表をした。二人は肝腎の北方領土の帰属問題については具体的に触れることなく、貿易高の拡大とか共同経済活動の推進、平和条約の締結を目指すなどとの発言ばかり。コレデ、日本にもいずれ春が、クルノカナ?
 しかし、私と市長にとっては、春が来るようなスピーチを、プーチン大統領がチラッとしてくれたのである。ロシアと日本では、これまでも人的交流が活発に行われているが、今年はサンクトペテルブルクと富山で、第三国も参加する国際演劇オリンピックを共同で開催する、と述べたのである。
 一昨年、プーチン大統領に面会し、シアター・オリンピックスの日露共同開催を了解してもらった経緯もある。日露合同の記者会見も最近、サンクトペテルブルクと東京でしたばかり。実現に向けての準備は着々と進んでいるので、いずれの日にかプーチン大統領の口からも言及されることがあるかと想定していたが、安倍首相との記者発表の席でなされるとは思ってはいなかった。
 これでロシア側にとっても、日本側にとっても大切な事業であることが、アナウンスされたことになり、私と市長にとっては念願の、利賀村の活動の世界的な認知と、その存在の独自性がますます明確になったことになる。有り難いスピーチではあった。
 分け登る麓の道は多けれど、同じ高嶺の月を見るかな。食卓を挟んで同じ料理を食べながら、市長と私はこの和歌の心境、同じ高嶺の月を望み見る所にまで、お互いにたどり着いて来たのかな、と感じあった一夕であった。 

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January,13,2019

1月13日 演劇の力

 今年は元旦に利賀から東京の自宅に帰る。いつもは正月3日まで利賀にいるのだが、1月8日に東京で開かれる第9回シアター・オリンピックスの記者会見の準備もあり、新年早々に利賀を出た。
 昨年の末に、今年行われるシアター・オリンピックスに必要な小規模な宴会や会合も可能な施設を、創価学会から舞台芸術振興のためにと寄付してもらった土地に建てた。12月27日にその建物のお披露目をかねた劇団の忘年会をしたが、参会者の多くから美しい仕上りを褒められる。年末年始は豪雪だとの天気予報もあったので、折角の建物が損傷するといけないと思いながら年を越した。静かな環境で美しい建物と共に新年が始められて、久しぶりに幸せな気分を味わう。
 シアター・オリンピックスの創設は1993年である。場所はアポロンの神殿のある聖地デルフォイ、ギリシャ悲劇に登場する有名な主人公オイディプス王が、自分の過去の謎を解き明かそうと神託を聞きに訪れた山上の小さな街である。そこに世界各国から演出家と劇作家が集まった。今やその大半の人たちは亡くなったり病院で治療中である。創設者8人の中で今年のシアター・オリンピックスに参加するのは、アメリカのロバート・ウィルソン、ギリシャのテオドロス・テルゾプロス、私の三人である。寂しいことだが仕方がない。とりわけ、私にその思いを抱かせるのは、長年にわたって事務局長として<ガンバッタ>斉藤郁子の不在である。
 今年のシアター・オリンピックスは、日本とロシアの初めての二カ国共同開催である。その意義を日本の人々にも広く知ってもらおうと、ギリシャから国際委員長のテオドロス・テルゾプロス、ロシアからは新しく国際委員に加わったアレクサンドリンスキー劇場の芸術総監督ヴァレリー・フォーキンに来てもらった。
 ロシア開催の中心地は人口530万人のサンクトペテルブルク市、利賀村は人口5万人の南砺市に属するとはいえ、500人弱しか居住者のいない山村、この二つの場所が中心になり、<人間とは何か、我々はこれからどんな未来に向かって生きるのか、そのために何が必要とされるのか>の認識を世界に共同で発信する。不思議といえば不思議な出会いだが、こんなことが実現するのも民族や国家の違いを乗り越えて、精神的な連帯をもって活動することを前提とする、演劇がそなえる力の証しである。
 軍事や経済の力は、一国家の力量を世界に誇示することはできる。しかしそれは、他国の人々にとっては、脅威として感じられることの方が多い。実際のところ、軍事力や経済力は当該国家を物質的に豊かにすることに役立ったとはいえ、その力の拡大のために犠牲になり、悲惨な人生を送らざるをえなくなった国家の人々も多いのである。
 今回のシアター・オリンピックスの二カ国による共同開催は、今後も繰り返されると予測される、こうした世界的傾向への芸術活動側からの批判、その実践的な形の一つの在り方であると思っている。

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