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鈴木忠志見たり・聴いたり

4月22日 移り変わり

 四月も下旬になると、雪解けも加速し、露出する地肌も拡がってくる。夜半に目覚めると、川水の流れる音が一日一日強くなっていくのを感じる。その音にいったん耳を傾けてしまうと、目がさえて眠れなくなる。うるさいと思うからではない。季節が変わっていくときの自然の勢いが、身体にとりついてくるのである。雪が地面のすべてを覆っていた時は、川水の音も自動車の走る音すらも雪に吸引され、無音の自然になる。静かに横たわっていれば、自分の身体の中の音だけが聞こえている気分になる。自分を取り囲む生な日常は自ずと遠ざかり、身体は空気に洗浄されている感じ。
 利賀芸術公園の敷地内を散歩して見ると、今年は殆どの木の幹や枝が激しく裂かれ折れている。全体量としてはそれほどではないと思うのだが、例年に比べ、雪質が湿っていて重かったことと、集中的に降った雪の量が多かったことを窺わせる。今年は植樹の仕事で忙しいかもしれない。公園内の土はそれほど肥沃ではなく、空梅雨だったりすることもあるから、水まきに苦労するかもしれない。
 雪解けとともに動物たちも活発に行動する。私の池のニジマスやイワナも鷺や貂や狐に食べられはじめた。自然の移り変わりとともに、動物たちの食欲も旺盛になる。そろそろ蛇も脱皮して現れてくるころである。
 明日は台湾国立劇場で演出する音楽劇の出演俳優とダンサーのオーディションに出かける。しばらく利賀村を留守にすることになるので、冬の間に心を慰めてくれた魚たちの安全のために、池の水面や周囲に針金を張り巡らし、動物たちが近寄れないようにした。たまにしかすることのない珍しい身体の使い方だったから、楽しかったが疲れた。
 利賀村では5月に静岡とイスタンブールで公演する「エレクトラ」の稽古が始まっている。このSCOTの「エレクトラ」は日韓の俳優たちによって演じられる。韓国語の鋭く強い音に触れるのも久しぶりである。一昨日から稽古に参加した韓国の主演女優に、細かい動きの指示をしておいたが、帰村するまでにどこまで身体化され深まっているか。