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鈴木忠志見たり・聴いたり

12月30日 アリガトウ

 26日に吉祥寺シアターでの昼の公演を了え、羽田空港から最終便で利賀村に帰る。羽田では富山空港は雪のため視界不良、飛行機は引き返す可能性あり、終電に間に合わない人にもホテル代は支払わないとか脅かされる。富山空港に無事着陸した時のホッとした気持ちは久しぶりである。27日の夜は百瀬川に面した食堂ボルカノで、ライトアップした雪山を見ながらの忘年会をした。劇団の今年の公式行事はこれで終わり、28日には殆どの劇団員がそれぞれに自分の実家などへ帰っていった。私も我が家の年越しの準備にとりかかる。
 昨日も今日も雪が降り続き、除雪車とずっと一緒である。年をとったせいか、さすがに腰が疲れる。と言うより、長靴を重く感じるようになってきた。今年の初めは除雪車を池に落としたことがあったが、今回は自分が落ちてしまった。下半身ずっぽり。池から這い上がり家のなかに飛び込んで足袋やズボンを脱ごうとするのだが、なかなか脱げない。水に濡れてピッタリと体にくっつき重くなっている。這い上がることが出来る場所だったからよいが、しばらく泳がなければならないとしたら、この衣類の重さと水温の冷たさで、どれぐらいの時間を泳いでいられるかなどと考えた。
 私が落ちた池は今年の秋に新しく造ったものである。池の周縁は石組みになっていて、水に対して多少の凹凸のある所がある。石が直線に配列されているとウッカリ思い込んで、水辺すれすれに歩いたのが間違いのもとだった。それに雪、ことに湿った雪はくっつきあって、石の縁より張り出している。そのことを失念したことも油断である。雪国での修行がまだ足りないと、ひとしきり反省をした。天気予報によると、大晦日から元旦にかけて、日本海側は大雪だそうである。今年は雪に始まり雪に終わる年であった。
 来年は年が明けるとすぐ、台北と北京での仕事に入る。この利賀村に戻って来るのは、2月の末になる。おそらく我が家は雪にスッポリと覆われていることだろう。雪との闘いはそれからまた再開されることになるが、今までそれだけの長期間を留守にすることもなかったので、どんなことが起こっているか楽しみなところもある。
 演劇活動は集団で一定の場所を長期間にわたり占拠して行われる。そして活動の過程で、たえず多くの人たちに接触する。観客だけではなく、あらゆる職業の人たちに作品を創るために手助けを求める。その点は他の個人芸術家、小説家や画家や音楽家の仕事とはまったく異なった性格をもったものである。
 今年もいくつかの新作を創り、この利賀村だけではなく、国内外のいくつかの場所での公演を成功のうちに終えることができた。協力、助力をいただいた多くの皆さんに感謝の言葉を記して、今年のブログの最後としたい。アリガトウ。