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鈴木忠志見たり・聴いたり

11月10日 感謝

 斉藤郁子を偲ぶ会が終わった。11月3日に劇団SCOTの本部、彼女の事務所が置かれていた通称<スタジオ>で行った。本来は図書館として建設されたものである。
 この建物は、富山県の財界やカリフォルニア大学などの寄付金で建設したものである。カリフォルニア大学が一時期、私が理事長を務めた国際舞台芸術研究所との共同事業として、サマースクールを開設していたことがある。カリフォルニア大学の学生が、利賀村民の家に2週間ほど滞在し、日本について学ぶ事業だった。その計画から実現に至るまでの経緯は、彼女の死の直前になされた回想のインタビュー、<斉藤郁子 SCOTの軌跡を語る>という冊子に、私も知らなかった苦労と共に楽しく語られている。
 偲ぶ会は昼夜の二回に分けて行った。合わせて、約140人の人たちが参集してくれ、盛会でなによりだった。これで来年の夏の追悼公演まで、彼女を偲ぶ催しはないが、喜んでもらえたのではないかと思う。告別式と違い、この会は殆ど富山県以外の人たちに案内を出したのだが、わずか2時間の催しのために、この遠い山奥までよく、これだけ多くの人たちが来てくれたと、会が終わって一人になった時には、ナンダカ、シミジミ、今までの人生に無かった、初めての感慨を味わった。いずれは来るべきものだと思ってはいても、実際にそれが起こってみると、親族の死とはまた違った寂しさがある。同志と言うものの有り難さと重みが、改めて身にしみてくるのである。
 彼女の入院から偲ぶ会までの間、劇団員も結束して事にあたってくれた。病院での昼夜に渡る付き添い、葬儀の準備から片付け、偲ぶ会の環境作りと参会者への接待など、演劇活動とは掛け離れたことも、よく分担し機転を利かせて処理してくれた。経験の深浅はあれ、僻地の山奥に同志として集まり、永年に渡り苦労を共にしてきた集団というものの存在と、その力の蓄積を噛みしめている。
 一昨日から、激しい雨が降り続いている。見事だった紅葉も終わり、これから雪が降り積もるまでが、利賀の景色をいちばん淋しく感じる時である。
 来月には武蔵野市の吉祥寺シアターでの公演がある。深く奥行きのある舞台を作り、我々の公演を待ってくれている人たちに喜んでもらうことが、斉藤の死や利賀の淋しさを、我々の生きている人生の豊かさの証しとして示す事ができることなのだと、劇団員と共に稽古を再び始めたところである。
 最後になってしまったが、斉藤郁子の死にあたってご厚情を示して戴いた方々に、たいへん励まされ、感謝していることをお伝えしたい。