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鈴木忠志見たり・聴いたり

1月19日 イライラ

 2週間ほど前に、朝食からの帰り道、道路で滑って後ろ向きに転んだ。毎朝早く除雪車が、道路の中央部分の雪はさらっていく。その上にうっすらと雪が積もる。毎日の除雪で雪はアスファルトに強く押し付けられ、その下はカチカチに硬く凍っている。
 いつもなら道路の端の、柔らかく雪が積もっている所を歩くのだが、携帯電話のベルが鳴り、夢中になって話しはじめ、思わず道路中央に出てしまった。油断である。見事に転倒、腰と後頭部を激しく道路に打ち付ける。携帯電話は遠くに飛んでいる。痛くてしばらくそのまま、なんとか起き上がり家までたどり着いたが、首が左側に曲がらない、足首も捻挫で歩くのもつらい。37年間で初めてのことである。何日か経ったら、今度は動きすぎたせいか腰が痛くなり、ゆっくりとしか歩けない。実にイライラする。
 道路で転倒し、脳内出血を起こしたり、腰の部分の骨を折ったり、普通の生活が出来なくなることもある、気をつけてください、履いている長靴も変えなければダメだ、と村の人が言う。早速に滑りにくいスパイク付きの長靴を買ってきてくれる。老人扱いしやがって、と内心で意気がって見せるのだが、実際に歩行も困難では、この言葉を口に出すわけにもいかず、素早い対応に素直に感謝する以外にはない。
 油圧式ショベルカーや除雪車を使っての作業が好きで、その仕事の最中に転倒したり、川に落ちたりして、シヌコトモアリカ、などと考えることもあるのだが今回、滑り倒れて初めて、この死に方もあるかもしれないと思う。起き上がれないまま、雪に埋もれて凍死、しかしそれも、病院で身体にいくつもチューブを差し込まれながら死ぬよりも良いかも、などと勝手な思いに耽る。
 東京にも雪が降り、5センチも積もったようである。大勢の人が滑って転び、怪我人が続出とか。おまけに高速道路は通行止めやら大渋滞。自然に弱い都会の光景がテレビのニュースで放映され続ける。
 安倍政権は公共事業の予算を補正で増額するようだが、高速道路のような物事を便利にする事ばかりに金を費やすのではなく、将来の生活に対するリスキーな物事を洗いだし、それへの対策に予算措置をすることも大切だろう。当面は無駄だと思えることにも対処してみること、その一つに、東京の雪害対策などはどうか。いずれ40センチ、50センチの雪が降り積もったらと仮定して、その場合の東京はどうなるのか。雪の処理ができず完全麻痺か。そんなことはあり得ないし、不謹慎だと言う人もいるだろうが、利賀村に居るとこういう想像もしたくなる。
 日本人はコトが起こってから慌てる習性がついてしまった。東日本大震災だけではない、尖閣や竹島の問題でも同じようなものだ。試しに一度ぐらい、東京に大雪が降ってもらうのも良いかもしれない。大地震の時の停電騒動以上に、大変な事態になるような気もする。停電と違って人も車も移動が困難になる。大雪の連続によって東京が機能不全を起こし、ついに首都を移転せざるをえなくなることも、想定できないことはないのである。国会でも首都機能の移転については、ずいぶんと前から話し合いがなされているようだが、らちが明かない。東京一極集中の弊害を是正するのも自然まかせになるか。
 ともかく、自然をナメテハイケナイ。気候の大変動が起こり、太平洋側と日本海側の天候状態が入れ替わる時が来ることもあるかもしれないのである。身体の調子が良くないと、こんな妄想まで湧いてくる。早くいつものように、歩けることを願うのである。