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鈴木忠志見たり・聴いたり

4月16日 成れの果て

  珍しいことに、若い女優リサが新聞を読んでいる。朝日、読売、毎日、日経、東京、産経、次から次へと夢中の風情。何処で買ってきたのか、不思議なことが起こっている。それにしても、こんなに新聞があったとは。
 マオチャンの後はハルコチャンか、ホラ見て! リサが食堂のテーブルの上に朝日新聞と産経新聞を広げて見せる。そして言う。この扱いは異常だ。カワイイ美女にかかると革新も保守もないのも気に入らないらしい。
 産経新聞の社会面には、一面に続いて3枚の顔写真が横並び、写真の横下には、時折目に涙する、一方で主張はっきり、笑顔を見せる場面も、と解説文。そしてそれらの写真の上には、「自信と未熟さ 落涙」の大きな文字が躍っている。朝日新聞も一面トップに顔写真、そして社会面の記者会見の写真の上には、「情けない」時折涙、という見出し語が大きい。カワイイ美女の涙は強い。失敗があっても、報道はハリウッドのスター並に扱ってくれる。
 男優たちは群がって記事を読み出す。その背中に、立って腕を組んだリサの声。ナオキサンとヨシミサンの時とはオオチガイ。どうやらこの報道に関わったジャーナリズムと理化学研究所の男たちを憎んでいる様子。
 ナルホド、そういえばあの二人の男、東京都知事とみんなの党の党首がナサケナク見える。新聞記事の扱いは小さかった。それに、5,000万円を入れたカバンを出したり、何億もする熊手があると言ったり。その時の二人の言い訳と比べると、ハルコチャンのは内容はないが、幕間なしの堂々の2時間30分、その口調は支離滅裂でもない。だからと言ってこの写真の多さ、リサの言うことも一理はある。写真と記事の内容がツリアッテイナイ。
 アンタタチ、ケイセイという言葉を知ってる? 突然、リサが言う。美人の女郎や遊女のことだろう。男優の一人が応じる。ソウダヨ、それにイレコンダ男が、財産を使い果たして城を滅ぼす。だから城を傾ける<傾城>と書く。色香のある美女の論文に浮かれて、理化学研究所は傾いたね。リサの口調は週刊誌の見出しに接近。今や科学者はバカ殿様か。ヨホド腹に据えかねたのか、リサの口調には勢いがある。
 何しろ5年間で一億円ぐらいの研究費が、国からハルコチャンに支払われていたらしい。消費税が3%上がっても苦労のヤリクリ、トンデモナイヨ! 女優をバカにしやがって。傍らでこの光景を黙って眺めていた男優の一人が言う。
 それにしても、理化学研究所の男たち、とりわけ男の上司たちは、何故ハルコチャンにこんな演技をさせておくのか。割烹着を着たり。ダマレ、シレモノ<痴者>! オマエハ女優デハナイ、と一喝する男が一人ぐらいは居てもよさそうなのにね。
 近ごろの男は気が弱いくせに助平、エネルギーのある女に、そんなことを言える男は、マズ、イナイネ。男に対する偏見と独断にみちているこの意見。一人の男優が意を決してこの会話に加わる。男たちが弱くて助平なことを、一概に否定はしないけれど、それでこんなことが起こったのではなくて、ハルコチャンが若くて、美しくて、優秀だから、女性を神秘的に美化する気持ちがあって、むしろ、ロマンチックに盛り上がったからではないのだろうか。
 リサはますます気に入らない。アンタ、ウブネ、助平で弱い男が身のほど知らずにロマンチックになるから、美人の若い女にナメラレルノサ。男性中心社会の成れの果ての現象。女に依存するか利用するかしないと、男はイキイキできない社会が来たことの予兆だよ。日本はこれから女性中心社会に転換する。AKBを見てみな。政治家のイイ、オジサンまでが夢中になってるじゃない。コレマタ極論でハゲシイ。
 リサは新聞を読んでいる男優たちに言う。私は稽古場に行くよ、カラダがカタクナッチャッタ。ホグサナケレバ。男優たちも三々五々、食堂を出ていく。出しなに若い男優が先輩につぶやくように聞いている。あれはウレナイ女優の嫉妬なんですかね? 先輩の答え、本人は正義感のツモリだと思うよ。日本の男社会は確かにヒドイからね。この先輩の答えはいつになく、リサにやさしい。