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鈴木忠志 見たり・聴いたり
5月28日 夏へ向けて
評論家・東浩紀の主宰する空間「ゲンロンカフェ」は、彼の言うように1960年代の小劇場運動の華やかなりし頃の雰囲気。狭い空間にギッシリと客が詰め込まれ、身動きがとれないのも同様。観客の質も昔と似ているかも。知的なことへの興味を失わない老若男女、対話を熱心に聞いている。懐かしい思いもあってか、東浩紀につきあって3時間、イツモノコトダガ、何を喋ったかは、即興だとコマカクは覚えていないが、ただ東浩紀が私のことを勉強しておいてくれて、知的なレベルを維持した対応をしてくれたから、原則的なことを論理的に喋れたという実感はある。チョット、乱暴だったところもあった気はするが、いずれ新しく発行される雑誌に掲載されるとのこと、その時に丁寧に加筆しよう。
翌日、数人の劇団員と利賀村へ帰る。利賀村はSCOTサマー・シーズンに向けて、外国人出演者の宿舎の新築、招待者の宿泊する天竺温泉の増築と、工事関係者で賑やか。今年はSCOT創立50周年、外国からは出演者や観客だけではなく、多数の報道関係者、大学教授たちも来るから、その対応の打ち合わせをする。
一般の観客、それも長期に滞在する若者たちのためには、多数のテントを張ることを計画している。今年はアジア演出家フェスティバルの終了まで、3週間連続の催し。できるだけ多くの公演を観たいという人には、宿泊費はケッコウ負担になる。ソレヲ、どう解決するか。
観劇料については一昨年から廃止、SCOTの活動への支援金として、観客の心のままに「ご随意に」にしたからよいが、宿泊代については私が勝手にするわけにもいかない。金銭的に不自由を感じる若い人たちも多いだろうと、テントは廉価だから、その数を増やすことにした。それに利賀のような大自然の中で寝泊まりし、芝居を何本も観るなど滅多にできない体験。好評だったら、さらに盛大にしたいと思っている。
また、大山房の前には、公演終了後に観客や出演者が、長時間にわたって対話のできる場所、グルメ館を軸に簡単な飲食のできる広場も開設する。村の人たちの協力を得て、深夜12時までは開店するつもりである。今まで多くの観客からの要望があったが、劇団の力だけでは実現できなかった。観客同士の議論が盛んになるとしたらアリガタイ。今年は25カ国から300人以上の人たちが来る。外国人からよく、ココハ、ニホンデハ、ナイミタイ、と言われる。多くの日本人が、同様の体験をしてくれたらと思う。ココハ、ニホンカナ、と。
今年は6本の私の演出作品を上演する。すべて過去に上演されたものではある。しかし、私の舞台は再演されるたびに、いつも少しずつ変わっている。例えば昨年、久しぶりに上演した「トロイアの女」は、演出的には殆ど新作である。新作という意味は、作品の主題への入射角が、時代との関わりにおいて変化しているということ。私自身の世界を見つめる目が、時代と共に絶えず変化しているのだから当然のことである。昔ながらの演出を再現するのが再演だとする演出家もいるが、私はその視点はとらない。小説や映画と違って、時代や社会の変化の渦中を新鮮に生き延び、息づいていけるのが優れた演劇の舞台だし、演劇創作の醍醐味でもある。1974年から昨年までの6作品、すべての作品が、今日ただ今の鑑賞に耐え得るかどうか、力技が要る。
昨日、劇団員が勢揃い。SCOTの俳優たちだけが出演する舞台の稽古が、まず始まる。