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鈴木忠志見たり・聴いたり

12月28日 「劇的Ⅱ」の映像

 吉祥寺シアターでの「北国の春」、「サド侯爵夫人」の公演を24日に終え、劇団員全員が26日に利賀に戻る。昨日は猛吹雪の中での忘年会、劇団は今日の朝から休暇に入った。
 来年は1月16日から利賀での稽古を開始するが、その前日の15日に東京で初顔合わせ。早稲田大学の大隈講堂に集合して、早大演劇博物館主催の「劇的なるものをめぐってⅡ」の稽古映像を見る。私は映写の前に、この作品について渡辺保と対談をすることになっている。観客数1,000人だが、申し込みは既に満員とのこと。
 この作品の初演は1970年、奇しくも三島由紀夫が市ヶ谷の自衛隊でクーデターを呼びかけ割腹した年である。私は早稲田大学裏の麻雀屋で、その時のニュース映像を見た。まさか後年、私の演出した彼の戯曲の舞台「サド侯爵夫人」が劇団SCOTの代表作のように見なされるなどとは、マッタク、不思議な巡り合わせである。
 この「劇的なるものをめぐってⅡ」の映像は稽古風景のものである。2年前、演劇博物館が女優の渡辺美佐子から、同じ時期の稽古風景を記録した映像を寄贈されたらしい。演劇博物館から、貴重な映像なので映写会をしたい、と申し出があったが一度は断った経緯がある。
 演劇博物館は本番の映像だから良いのではと言い張ったが、この作品には公演本番の記録映像は存在しない。渡辺美佐子はどうしてこの映像を手に入れたのか、しかも私の所有しているものとは異なっていた。今や綺麗にプリントをし直すこともできないフィルムのもの、当時の一時期にだけ発売された旧いカメラで撮影されたもので、映像は場面によって不鮮明、音声もカメラに付属したマイクでのものと思われ不明瞭な所がある。正確ではないかもしれないが、早稲田大学の学生グループが、五日間ほど稽古を見学しながらカメラを回していた記憶があるから、その人たちから流出したものかもしれない。この作品の初演時の観客の反応については、以前のブログ「イノチガケ」に書いたことがある。
 今日、この約50年前の舞台映像を改めて見たが、マズ使用されていた音楽に驚く。サミュエル・ベケットの「ゴドーを待ちながら」の会話の冒頭場面に流れる音はチンドン屋の曲、最近の私の舞台でお馴染みのチンドン屋。それに都はるみの歌があるかと思えば、幕切れの鶴屋南北の殺しの場面は、任侠ものの流行歌「男の裏町」をジャズ風に編曲したものである。ナンダカ、チットモ、カワッテイナイ、のである。しかも、この舞台の主題曲として流れるのは、「むらさき小唄」の演奏、その歌詞は「流す涙がお芝居ならば、なんの苦労もあるまいに……」、映画「雪之丞変化」の主題歌である。自分で言うのも少し、オカシイかもしれないが、若さに任せたメチャクチャな演出だとはいえ、当時の人生観と演劇観がそれなりの理屈で表明されてはいた。
 しかし、この映像をチョット見ただけでは、一般の人だけではなく、今の演劇人にも、ナニガ、ナンダカ、ワカラナイ、とは思う。ましてや稽古のそれである。ソコデ、私の年来の友人であり、演劇評論家としてもっとも信頼する渡辺保の声に耳を貸すことになる。彼は折節に言っていたのである。
 映像は未来永劫に残ってしまうし、この舞台を実際に見た人も少なくなっているのだから、映像を公開してチャント解説をした方が、イイヨ。私は昔の映像を見るのは、イツモ、恥ずかしいのだが、渡辺保がそばにいてくれると言うので、今回は安心して演劇博物館の申し出を了承した次第なのである。もちろん私の所有していた映像でである。
 言い訳なのか、宣伝なのか、ともかくこの経緯を記録しておこうとしたのか、ナンダカ、年の暮れに似合わないブログになってしまった。