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SCOT Essays詳細

March,22,2010

失敗から学ぶこと

 すでに長い間にわたって伝承されている、きまった形のようなものでも、それが初めて出現したときには、試行錯誤とその形にたどりつくまでに費やした無駄な時間と失敗があったにちがいないのである。だから、舞台芸術を教えるときに大切なことは、形を教えたり、すぐに最終の結果を示すことではなくて、その形が出現するまでの先人の苦労がどのような過程=プロセスと時間に支えられていたかを、もう一度体験として生きてもらうことである。そういう環境をつくって、自分なりの形、これをスタイルといってもよいけれど、それを発見してもらうことが大事なのである。
 その場合、先人がつくりだした形=スタイルは偉大な参考書であり、目標でもあるが、しかし身体の世界では、決して先人が遺したと同じ形やスタイルにたどりつくことはない。なぜなら、身体というものは個人個人で違っているものだからである。同じ病気になっても、その症状の現れ方は個人個人で違うのである。同じ意味内容をしゃべっても、同じ歌を唄っても、声質の違いは一目瞭然なのと同様である。
 このことがわかるまでの訓練の過程=プロセスと、その時間を保証するということ、それは取りも直さず、金銭や時間の効率的な使い方よりも大事な精神的な価値があるとみなす心を持つということだが、そういうことがないがしろにされつつあるのが、日本文化の、ひいては日本社会の一番の問題点であると思う。
2009年3月、「藝文とやま」37号より

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