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鈴木忠志見たり・聴いたり

1月11日 こじんまり

 日本の総理大臣も、最近はこじんまりとしてきましたね。流暢な日本語でズバリ。そうですね、と即座に相槌を打って後は沈黙。他にどんな答え方があるというのか。相槌のついでに、日本国民がこじんまりとしてしまいましたからね、と言ったら当たり前すぎて両者ともにシラケルだろう。
 ここ数年の日本は、一年毎に総理大臣が無責任な入れ替り方をしてきたのだから、こう言われても仕方がない。その総理大臣経験者が再び二人も登場し、総理と副総理をしている。確かに奇妙な光景である。いつの頃からか日本の政界は、与党も野党も人事のどんぶり勘定、離合集散に明け暮れるようになった。韓国は初の女性大統領、オマケニ美人。これでは勢いがつくかもしれないなどと、馬鹿な想いが湧いてきてオカシイ。外国人を前にして、どうして日本はこんなにも、人材が払底してきたのか不思議ですよ、などと嘆くのもワザトラシイ。
 正月の5日までを利賀村で過ごし、6日から韓国へ行き、旧知の人たちと会食をした時のことである。発言の主は呂石基さん、1986年に「トロイアの女」で初めての韓国公演が実現したのも、この人が政府系財団の要職にあった当時、物心両面で応援してくれたからである。それ以来の付き合いで、東京だけではなく静岡にも利賀村にも、何度も私の舞台を観にきてくれている。91歳の高齢ながら、今だ頭脳明晰、旧制の東京大学を卒業し、高麗大学の英語英文学教授や韓国文化芸術振興院長なども歴任、シェイクスピア学者としても高名な韓国文化界の長老である。現在は三部からなる回想録を執筆中とのこと。スズキさんのことも出てきますよ、と言われて嬉しい気持ちになる。
 新年早々に韓国へ行ったのは、日韓合同制作による「リア王」の打ち合わせのためである。今年の秋にまずソウルで、年の暮れには日本で公演する、そのための経済的な役割分担、おおよその配役、例えば女性の役はすべて韓国の女優で演じることなどを決めた。この打ち合わせの席には、李明博政権初期に3年間も文化体育観光部長官を務めた柳仁村さんも同席していた。日本と韓国は領土や歴史認識の問題で、政治的な緊張関係にある、今だからこの企画は貴重、強力に推し進めるべきであると、私と彼の意見が一致。出席者の中からは、いっそ中国の俳優も一緒にという声もあったが、私には私なりの中国との関係もあり、この企画は二国間でスッキリトということで落ち着く。
 利賀村へは9日に帰り、翌日は劇場や宿舎周辺の雪かきと室内の大掃除。いよいよ12日からは忙しくなる。今年から利賀で持続的に活動を開始する外国人劇団、インターナショナルSCOTとでもいうべきグループの稽古が始まる。中国、韓国、アメリカ、イタリア、デンマーク、リトアニアから10人ほどが参集する。20代から40代後半、それぞれの国で既にそれなりの活躍をしている人たちである。もちろん、全員が私の演劇観を理解し、演技の訓練も習得している優秀な演劇人、私としては利賀の活動をさらに発展させるための心強い援軍、同志が増えたことになり喜んでいる。世界的にも公演活動をするつもりだが、まずは今年の夏に利賀で、初めての舞台作品を披露する。演目はフランスの劇作家イヨネスコの「禿の女歌手」、演出はイタリアのミラノを拠点に活動しているマティア・セバスティアンである。
 またそれだけではなく、富山県の演劇志望の中学生のために、演技の身体訓練の教室を開くことにしたら、この雪の中を利賀村以外の地域から十数名の参加者があって驚いている。この教室は一週間に2回、土日に開くだけだが、3月まで続く。来年にはこの子供たちとSCOTの俳優で、舞台作品を創ることになっているが、これも初めての試み。この企画も大きく発展し、いずれは子供たちだけで面白い舞台作品を創れないかと考えている。
 日本人中心、外国人中心、子供中心、この三種類の人たちによる稽古と舞台の本番が、利賀村で同時に行われたら、どんなに楽しいだろう。