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鈴木忠志見たり・聴いたり

11月29日 仁義なき戦い

  フランスで起こった同時多発テロの数日後に電話がある。あなたはこの事件をどう見ますか。こんなことを電話で突然にきかれても、マトモに答える気はしない。
 少し気楽にイコウ! と思って、ソウダネェー、仁義なき戦いだねぇー。相手は少しメンクラッタようで、ハアー、ジンギデスカ! ウン、俺が若い頃に、そういう題名の映画があったよ、広島のヤクザの抗争もの。
 それまでのヤクザ映画とは違って、登場する人物に仁義がない。裏切りや陰謀のヤクザもの。ソレマデノハサ、一匹狼のヤクザにも仁義の心があって、マア義理と人情のようなものだけど、人間としての筋を通すことを考えていてさ、悪くて強いヤクザの組に殴り込みをかけたりしてた。イジメラレテル他人のために義侠心というのを起こして死ぬわけ。モチロン、相手の親分を狙って殺す。相手を殺して生き延びちゃったら、ドウドウと刑務所へ行った。ソレガ、随分と変わっちゃったね。
 世界で起こっていることは、ヤクザの出入りと同じですか。今のは弱いヤクザの組が追い詰められすぎて、無差別のイヤガラセをしている感じ。昔の映画のヤクザは関係のない一般市民は殺さない、殺す対象はハッキリしていた。中国伝来の任侠道にかぶれて、弱きを助け強きを挫く、チョット舞い上がった男の美学みたいなところがあったな。
 そうするとセンセイは。センセイはヤメテクレナイカナー。ハイ、そうするとスズキサンは、この事件には義理と人情というような人間としての道理がない、人間性にたいする裏切りだと思ってるわけですね。ソウニ、キマッテルジャン。フランス側もですか。フランスの報復は正義になりませんか。セイギネー、オレハ、その言葉は嫌いなんだよ。そんなものヤクザの世界にあったためしはない。自分勝手があっただけだよ。フランスがヤクザの国だなんて初めて聞きました。ソウカイ、この男もフランスかぶれかな、と私はツブヤク。
 フランスのオランド大統領は、ウクライナやクリミヤを侵略したことで激しく非難していたロシアとも連帯したいようですけど、どう思いますか。マタマタ、メンドウクサイことを聞く。俺は暴力団の評論家ではない! ダカラ、仁義がないと言ってるでしょう。
 敵の敵は味方だと言うけど、オトシドコロが分からない。ただ一緒に殴り込もうなんて。「俺の目をみろ何にも言うな、男同志の腹のうち」北島三郎の「兄弟仁義」みたいにはイカナイ。オランド組とプーチン組のヤゴウは駄目だと思うよ。
 相手は知識人のタマゴかも、少しウンザリしたようである。私がチットモ、マジメに答えていないと感じるようである。それにフランスに同情するようなことを、少しも言わないのが気に入らないらしい。ISに道理があると思いますか、とくる。私はすかさず、バカを言ってはいけない。あんな新興ヤクザは潰すべきだと思っているよ、アレモ、しかるべき仁義を切ってないからね。
 タダネ、ISを生み出したのは、最近ではイラクに仁義なき戦いをしたアメリカ、その前はフランスとイギリス、ソレヲ、自覚してもらわないとね。アンタは「アルジェの戦い」という映画を観たことがあるかい? フランスの植民地だったアルジェリアが独立しようとして、どれだけのアルジェリア人が弾圧や拷問で殺されたか、フランスは国家的にテロ行為をやっていたことを忘れるべきではないし、イギリスだってアラブ諸国の国境を勝手に決めたり、イスラエル独立の時はユダヤ人に対して頻繁にテロを行っていた。ヤリタイホウダイだったよ。仁義なき戦いはEUとアラブの宿命だね。
 難民のことはどう思いますか。悲惨だよ、一般のアラブ市民は。国に残ればシリアでもイラクでも政権側か反政府側あるいはISの兵士にされて、いずれは死ぬ。爆弾は空から絶えず降ってくるし、逃げ出す以外に生きる希望はない。ましてや子供の将来のことを考えたら、あんな所に居られるわけがない。アンタも質問ばかりしていないで、難民の一人や二人を受け入れる準備でも考えたら!
 マズ、センセイの意見を聞いて参考にしまして……打てば響くようにチョウシが良いことを言う。むろん、私も何かができるわけでもない、稽古があるからコレグライデナ、と電話を切る。長い会話であった。
 夕方のNHKのテレビ報道でフランスからの中継がある。アナウンサーが開口一番、寛容の国フランスでは、多くの困難を迎えて緊張が高まっている、とかなんとか興奮して喋っている。フランスが寛容の国だとは笑える。フランスヤクザが寛容なら、ニッポンヤクザはどうなんだろう。隣に居た劇団員の一人がすかざす答える。ニッポンヤクザはオモテナシが得意。世界の人たちに優しく真心を尽くす組だと世界中が思ってますよ。
 最近はオモテナシのニッポンヤクザも、多くの困難を抱えて、今や緊張は高まりつつあるだろう。コトニヨッタラ、面<オモテ>なし=顔のないヤクザの国になってしまうかもしれない。だからといって、殴り込みの得意なヤクザにだけはなって欲しくないものである。